時あたかも、モダンジャズが興りつつあった一九四五年頃、このマンハッタン生れの金髪の美少女はたちまちニューヨークのジャズファンの注目を集めてしまつたのである。
そして彼女のデビューLPは、トランペットの不滅の名手故クリフォードブラウンの名伴奏にのつてジャズ・ボーカルLPの傑作として今でも世界のファンの間で聴かれている名盤である。
以上ヘレン・メリルは、アメリカはもとより、ヨーロッパ特にイタリー、フランスで絶対な人気を持つており、我国にも一九六〇年と一九六三年に二度来日しておる。
我国に於けるヘレン・メリルの人気は一種異様なものがあると云えよう。
たしかに二度の来日に依つて、彼女の人気は更に高まつたのであるが、女性歌手である彼女のファン層は広く、男性は勿論、女性に大変人気がある点に注目すべきであろう。
美人歌手ナンバーワンであるヘレン・メリルが男性ファンに支持されるのは当然であるが、若い女性に大変熱心なファンを持ち、広い女性層に支持されているのが我国のヘレン・メリルの人気の秘密と云へるのである。
我国に於ける、このヘレン・メリルの人気の秘密は先づ彼女が、いはゆる”金髪のヤンキー娘”と云った印象とは程遠い、むしろ日本人に近い小柄な、そして地味な、誠実な人柄からの印象によるものと思われる。
ヘレン・メリルの歌、お人柄、パーソナリティーは、むしろヨーロッパ人の舞台を思わすものがあり、そういつたところに彼女の日本に於ける人気があるようである。
また、女性が美しい、そして自分達も共感できる、女性歌手としてヘレンを支持する原因もこの様なところにあると云えるであろう。